けんか ~自己主張のぶつかり合い~

2025.06.17

けんか ~自己主張のぶつかり合い~

子どもたちは、自分のしてみたい活動を見つけて遊び始めます。最初は一人で自分のしたい遊びをする「一人遊び」です。それが次第に「平行遊び」というかたちに変化していきます。

 同じことをしたい子どもが2、3人で遊んでいます。自分のしたいように遊んでいて交流が少なく、隣同士で並んで遊んでいます。

 同じレールの上で、それぞれお気に入りの電車で遊んでいる子どもがそうです。

「新幹線、貸して?」「だめよ」「○○が使いたい」と言って新幹線を奪い取ると「△△が使ってる」・・・とけんかが始まります。また、ままごとでも何人ものお母さん役がいます。Aちゃんは赤ちゃんのお世話、Bくんはお料理、Cちゃんはお買い物。3人のお母さん役は、1つのままごとコーナーで自分の思いついたことをしたいようにしています。「そのエプロン貸して?」エプロンはいくつかあるのですが、お気に入りのエプロンがあるようです。「だめ。私が使ってるの」「僕も使いたい」「貸して」・・・。

 この頃のけんかです。一人ひとりが自分中心的ですから、自分の欲しいものは自分の思い通りにしようとして、相手の気持ち、思いとぶつかるのです。幼稚園の遊具・おもちゃは、「みんなのもの」です。誰が使っても良いのですが、ずっと独占して使っていたり、誰かが使っているのを奪い取ってしまうのは、違います。

 「貸して」と尋ね、「いいよ」と了解を得られて、初めて貸してもらえます。「いいよ」と言われればよいのですが、「いやよ」「だめよ」と言われると、けんかが始まります。しかし、「いやよ」「だめよ」という自分の気持ちをはっきりと表すことも大切なことです。ですから、貸してあげないのは悪いことだと思うのは間違いです。

 けんかは、お互いの自己主張のぶつかり合いです。自己主張のぶつかり合いは自律していく一つの姿でもあります。言わなければならないことは自分の言葉で相手にわかるように伝え(難しい場合は、周りの大人が代弁して)、自分の考えで責任をもって行動することです。本園の大切にしている「一人ひとり」の視点です。

 しかし、自分の思いだけを押し通してばかりいると、友だちは離れていってしまいます。友だちの思いも聞かなくてはなりません。経験を通して「○○くんもこれで遊びたいのか。使いたいのか。自分と同じだな」と、友だちの思いが少しずつ分かってくるでしょう。自分の思いを通したり、我慢したり、譲ったりと経験を繰り返しながら、時間はかかりますが、少しずつ自分の気持ちをコントロールできるようになっていくでしょう。こうして隣にいた同士が、少しずつかかわりができて、友だち同士一緒に遊ぶようになっていきます。本園の大切にしている「ともに」の視点です。

 けんかのできる友だちは、同じ遊具・遊びに興味があり、またお互いに関心のある者同士なのです。手を出したり、暴言を吐いたりして、相手を傷つけることは絶対にしてはいけません。しかし、けんかは悪いことだと決めつけるのは、少し違うように思います。

 なぜ、けんかをしなければならなかったのか? どうしてけんかになったのか? 子どもの様子を見ていて、その子の気持ち、心の中のことを考えることが大切です。

 聖書に「わたしがあなたがたを愛したように、互いに愛し合いなさい。」(ヨハネによる福音書15章12)の言葉があります。このことは、そのまますぐに実行できるほどに、簡単なことではないでしょう。丁寧に少しずつ育まれていくものです。聖書に書かれてある愛の生き方とは、幼児期はまさしく出発のところです。愛し合っているかどうかよりも、「愛し合おうとしているかどうか」「相手を理解しようとしているかどうか」を一つの目安にしたいですね。

相手を理解しようとしているか、私たち大人は「あたたかなまなざし」を注ぎながら子どもたちを支えていきましょう。

主幹保育教諭として 赤木敏之